浦山研究室 京都大学大学院 工学研究科 材料化学専攻 高分子機能物性分野

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Research

高分子ソフトマテリアルの物性解析と機能創出

ゲルやエラストマー(ゴム)などの「高分子ソフトマテリアル」と呼ばれる物質群は、極めて柔らかいうえに大きく伸縮できる”しなやかさ”をもち、金属やガラスなどのハードマテリアルとは異なるカテゴリーに属するユニークな材料です。ゲルやエラストマーのソフトマテリアルを構成するひも状の高分子鎖は液体と同じ高い運動性をもち、無秩序な三次元網目構造を形成しています。これらのソフトマテリアルは、自身の形を保ち流動しない”固体”でありながら、”気体”の圧力と同じ起源のエントロピー弾性と”液体”の粘性、の多面性を示します。

2020年3月刊行
長田義仁・Karel Dusek・柴山充弘・浦山健治
講談社サイエンティフィック

ソフトマテリアルは、人体の大半を構成する軟組織であり、コンタクトレンズ、自動車タイヤ、食品、化粧品など日常生活に不可欠な用途を担っています。液体と固体の二面性をもつソフトマテリアルの物性は、ハードマテリアルの解析手法が使えず、実用先行で理由が明確でない現象も数多くあります。ソフトマテリアルの物性解析には、レオロジーや非線形科学を用いたアプローチが必要となり、依然として未踏領域が広く残されています。

 ソフトマテリアルの液体的な高い分子運動性と内部自由度を利用すると、外力、温度変化、光などに応答して機能を発現する刺激応答性を付与できます。ソフトマテリアルは機能性材料・アクチュエータの素材として注目され盛んに研究されています。

 我々は、様々な高分子ソフトマテリアルの物性と機能性を独自の手法で測定・解析し、高性能化と新機能の創出につながる学理を探求しています。

主な研究項目

  1. ソフトマテリアルの力学特性の精密解析と物性創出
  2. 液晶性ソフトマテリアルの刺激応答特性の解析と創出
  3. 機能性ゲル微粒子散系のレオロジー挙動の解析
  4. 天然高分子系ソフトマテリアルのレオロジー挙動の解析

 

1.ソフトマテリアルの力学特性の精密解析と物性創出

<多軸変形解析>

材料の力学測定には簡便な単純引張や圧縮変形がよく使われますが,特性の一面しか捉えていません。我々は,二方向にひずみを自在に与えた状態で各方向の張力を測定できる装置を複数開発し,高分子ソフトマテリアルの力学特性の全容を解明する研究をしています。特に,自重で変形するような超ソフトゲル材料の二軸伸長特性を調べる装置は国際的にも極めて希少です。

 

 

 

 

き裂の進展ダイナミクスの解析

き裂の進展は製品の安全性に直結するため,き裂の発生や発生したき裂の進展を抑制する材料設計が必要とされています。き裂は変形された材料では時速100kmを超える高速で進展することも珍しくありません。大変形や粘弾性を示すソフトマテリアルのき裂の進展機構は未解明の点が多く残されています。我々はソフトマテリアルを高速で進展するき裂を高速カメラや画像解析で捉えて解析し,進展機構を解明する研究をしています。

 

 

 

 

ひずみ誘起結晶化による力学補強の解析

航空機タイヤなどの高性能・高信頼性が必要な用途には、天然ゴム(主成分はcis-1,4-ポリイソプレン)が多く使われています。天然ゴムは伸長されると部分的に結晶化し(ひずみ誘起結晶化;SIC)、自らを力学補強する興味深い性質があります。天然ゴムのSICによる優れた自己補強メカニズムは謎が多く、高分子科学の黎明期からの未解決問題のひとつです。このメカニズムを多角的に解明し、強靭な新規エラストマーの分子設計の確立を目指す研究を行っています。(JST-CRESTの研究として実施中)

網目構造の制御による物性創出

ゲル・エラストマーの3次元網目には、架橋の形式、架橋点間の鎖とダングリング鎖(他端が自由な鎖)の鎖長とその分布、鎖どうしのほどけない絡み合い、など多数の構造的な因子があります。我々は、これらの構造因子を制御し、著しい高伸長性や極端な低弾性率、および制振性能の向上などを実現しています。高分子網目の構造制御は自由度が高く、物性・機能発現には多くの可能性が残されています。

2.液晶性ソフトマテリアルの刺激応答特性の解析と創出

液晶エラストマー(Liquid Crystal Elastomers: LCE)は,ディスプレイ用途で有名な液晶物質の性質をもつゴムです。LCEは,「液晶分子の配向変化に追随してマクロ変形する」,「液晶配向のアシストによって微小な力で大変形できる(ソフト弾性)」というユニークな性質をもちます。LCEは人工筋肉などのアクチュエータの素材として期待され,アイデア次第で様々な刺激応答挙動を創出できる興味深いソフトマテリアルです。我々は,温度変化などの外部刺激で生じるLCE膜の伸縮,屈曲,ねじりなどの多様な熱変形挙動,ソフト弾性に由来する特異な力学特性,弾性変形に対する光学応答挙動などを多角的に研究しています。

 

3.機能性ゲル微粒子分散系のレオロジー挙動の解析

溶媒を多量に含むソフトゲル微粒子は硬質粒子と異なり変形や体積変化を示します。このため,その分散液では微粒子を超高密に充填でき,外力がある大きさ以下では流動せず(固体的挙動)それを超えると流動する(液体的挙動)二面性を示すようになります。体積や粒子間相互作用が温度やpHで変化するゲル微粒子を用いると,環境変化に応答してレオロジー特性が劇的に変化する機能性液体となります。微粒子合成のエキスパート(信州大学:鈴木大介研究室)と共同で,分散液のレオロジーと機能性に関する基礎研究を行っています。

 

 

4.天然高分子系ソフトマテリアルのレオロジー挙動の解析

地球環境への意識の高まりに伴って,天然由来の高分子材料に期待が集まっています。当研究室では,天然由来の高分子の中でもセルロース,アミロース,キチンなどがよく知られている多糖に注目し,フィルムの力学物性,ゲルの変形挙動,溶液のレオロジー特性などの基礎的な物性研究およびその知見を応用した新材料の創製に取り組んでいます。多糖の基礎科学の発展と応用分野への展開という両輪によって,天然高分子である多糖の強みを活かしたグリーンケミストリーへの貢献ができると考えています。実験手法に関しては,レオロジー測定を基盤とし,偏光変調分光法などの光学的手法を組み合わせた研究を進めています。さらに様々な実験手法に関する知識を融合することによって新しい実験手 法を確立することにも取り組んでいます。